2011年7月15日発行 Vol.15夏号
丸川さんからのメッセージ
3月11日から、もう4ヶ月がたってしまいましたが、東日本大震災で被災された方々に、遅まきながら、深くお見舞い申し上げます。
実は、地震・津波および福島原発事故につき、少々長い一文をかなり以前に書き上げたのですが、ただでもこの間、不安な鬱陶しいニュースと情報で気が滅入っているであろう皆様に、わざわざケニアから同じような不安と怒りの内容の文章を送ることもないかと思い返し、破棄してしまいました。その後筆が進まず、日がたってしまいましたが、今回は気分を一転させて、今年新たに始めた奨学金のプログラムの話を書くことにしました。ご存知の方もおられると思いますが、私が行った協力プログラムの中で、一番大きな、また力を入れたものとして、奨学金プログラムがありました。
ナイロビの北西約200km、ケニア山の西、約100kmにある、陸上競技で有名なニャフルル市を中心とした地域で、私の家内の出身地ということもあり、1995年から2006年の12年にわたり、優秀にもかかわらず貧困のため、高校へ進めない子供たち約280人に対し、奨学金の支給を行いました。授業料の75%を直接、高校に支払うという形で、うち約120名が難関の国立大学に入学、そのうち、もうかなりが大学を卒業し、実社会に入っています。大学に入学できなかった子供も、受けた高校教育をもとに、頑張ってくれているものと思います。ただ、資金的な困難で、2006年を最後に中止せざるを得なかったのは残念の極みでした。
ところで不思議な話なのですが、1992年頃から付き合いの始まったギドンゴ製茶工場では、この地域の貧しい優秀な子供たちに対する奨学金の要請が、一度もありませんでした。もちろん、私がニャフルルでやっている活動については、よく知っていたはずなのですが。もう何回も書きましたが、ギドンゴ製茶工場自体が、約200k㎡近くに渡る茶葉収穫地域の約5000戸の紅茶農家に所有されていますし(この地域の人口は、10万人くらいでしょうか)、Chairmanで友人のムレディ氏を含めて6人の重役は、すべて農民の代表ですから、そうした話が持ち上がっても当然の環境だったのですが。こうなった理由を2・3考えてみました。
1.やはり紅茶からの収入のおかげで、もちろん我々日本人の基準ではなく、また首都・ナイロビの基準でもなく、ケニアの農村の基準として、少々余裕があること。特にニャフルル近辺のような半乾燥地帯に比べますと、ケニア山にからむ降雨の多さ、地下水の存在、その土壌の肥沃さで、大きな違いがあります。ただ、土地生産性が高い分、農地が分割化し、人口過剰の感があります。
2.この地域で特に貧しいのは、紅茶畑を持っていない人たちであること。紅茶畑を持つと長い目でみると有利なのは明らかなのですが、特にこの2年程は紅茶価格が高く、かなりの収入になっているのですが、なにせお茶の枝を挿し木してから、収穫ができるようになるまで4年ほどかかってしまいますから、その間その土地から収入がないのは、貧しい農家ではこたえてしまいます。
その他、茶葉に対する支払いの1/3程は翌月支払ってくれるのですが、残りの2/3以上が1年以上経ってからというのも、貧しい農家には、耐えられないでしょう(なぜそうなっているかは次号で説明いたします)。
ということで、今回奨学金を始めるにあたり、以前の経験をふまえて、次のようなシステムを提案し、受け入れてもらいました。
1.奨学生の選考は、茶葉収穫地域にある、当会が寄付を行っている19の公立小学校の中から、小学校の校長先生の推薦を通して行うこと
2.候補者の家族が、茶畑を持っているかどうか、問わないこと
3.成績はKCPE(小学校の卒業資格試験、全国一斉テスト)の結果によること
4. 家庭環境が、その地域の行政官(チーフ、アシスタント・チーフと言います)や、キリスト教会関係者の証言・アドバイスを受けて、奨学金がなければ高校へ行けない、続けられないのが明瞭な、子供を選ぶこと
当会の考えは、人間のつながりを大切にした紅茶販売からの利益の一部を、本当に必要としている人に援助しようというものですから、紅茶畑を持っていなくても、ましてや彼らも同じ地域コミュニティのメンバーなわけですから、彼らを援助するのは、理にかなっていると考えます。初めての選考ですので、やり取りで少し時間がかかってしまいましたが、無事、下記のように女子3名、男子2名を選考することができました。(名前/小学校名/高校名)
1.リネット・カルウィザさん/Mpuri小学校/Kaaga女子高校
2.マーシー・ガチェリさん/Kathiranga小学校/Muthambi女子高校
3.ジョイ・カランブさん/Muurugi小学校/ Muri高校
4.ジョシュア・キリイニャくん/Kiamiriru小学校/Ontulili男子高校
5.スティーブン・コオメくん/Kaugu小学校/Kanyakine男子高校
この子達には、高校を卒業するまでの4年間援助を続けなければなりませんし、来年からも毎年5名ずつ取り続けていきますので、4年後(2014年)には、計20名を援助することになります。受け皿の公立小学校が19校ありますから、5名は少なすぎるのですが、将来、資金的に無理が起こるようなことは、避けなければなりません。また、各公立小学校への寄付も続けていかなければなりませんし。
次回は、ケニアの教育システム、また状況について、私の目から見た印象を書いてみたいと思います。
生産者・製茶工場から手紙が届きました
「ケニア山の紅茶」の生産者から2月14日付で、手紙(英文)を受け取っています。訳を作りましたので、ご一読ください。
『ケニア山の紅茶』を愛飲されているみなさまへ
農薬を使用していない『ケニア山の紅茶』について
概要
位置: ギドンゴ製茶工場は、KTDA(ケニア紅茶開発社)のIV地域に属する、ケニア山の北東斜面のふもと、標高1950m、ちょうど赤道(北半球と南半球)をまたがる製茶工場です。首都ナイロビからは約240km、メルーからは約9km離れています。紅茶生産者と茶畑: 製茶工場周辺の茶葉収穫地域には、5,701農家が登録しており、茶畑の総面積は2,364.75エーカー(957ヘクタール)。一農家が所有する茶畑の平均的なサイズは、0.4エーカー(0.2ヘクタール)です。小規模の茶畑ですが、継続的な改善により、より高い生産性が期待できる土地です。
生産性: 2009年7月から2010年6月の1年間、2,152,000kgの紅茶を製茶しました。1ヘクタール当たりの茶畑から2,248kgの紅茶を製茶した計算になります。ケニアの国全体の平均2,660kgよりやや下回りますが、国内の小規模紅茶農家の平均2,242kgより、少し上回っています(※)。生産性を上げるため、生産者農家が直面する社会的・経済的問題に、常に取り組みがなされています。私たちが抱えている主な問題は、高い燃料費、高い人件費、茶畑に投入する費用により、製茶コストが高くついているということです。
製茶工場の製茶容量: 茶葉5,500,000kgを製茶できる容量で、1975年に操業を開始しました。1986年~1987年に製茶工場の拡張がされ、追加で4,500,000kgの茶葉を製茶できる工場容量になり、1996年~1997年は2回目の拡張により、更に5,000,000kgの茶葉を製茶できるようになりました。現在は15,000,000kgの茶葉を製茶できる容量に至っております。
生産品質管理
品質を高めるため、また環境を守るため、私たちは品質管理システム、食品安全管理システム、SAN(持続可能な農業ネットワーク)をつくり、実行しています。
ISO 9001:2008 認証(2009年)
ISO 22000推奨 (2010年8月)
レインフォレスト・アライアンス 推奨 (2010年12月)
私たちが日本のお客様へ直接輸出するようになったのは、1990年前半です。日本ケニア交友会(丸川正人氏)と生産者農家/製茶工場とのすばらしい関係は、もう18年以上も続いております。私たちが作った紅茶は安全で農薬を使っていないということを、自信をもって保証いたします。
KBS(ケニア基準局)の検査でも、農薬が使われていないという分析結果がでています。私たちの紅茶はいつも安全ですので、安心して飲んでいただけます。
最後になりましたが、私たちの紅茶を飲んでくださっているみなさまに、大きな感謝の気持ちを届けたいと思います。いつか、みなさまが私たちの紅茶畑に足を運んで、生産者と交流をもたれることを望んでおります。
Paul Murithi Ringera (署名) ギドンゴ製茶工場 会長
J. M. Muturi (署名) ギドンゴ製茶工場 工場長
(※)1kgの紅茶を製茶するためには、約4kgの生の茶葉が必要です。ですから、1ヘクタール当たりの茶畑から、平均約9トン/年の生の茶葉を収穫できる計算になります。優良農家ですと更に多く、約20トン/年を1ヘクタールの茶畑から収穫しています。常識的に考えて、とんでもなく多い数値ですが、これはアフリカの十分な太陽と豊かな土地、ケニア山からの水や適量の雨のおかげです。
残留農薬検査しました
4月22日に前回と同じつくばの環境研究センターで、残留農薬検査を実施しました。もちろん全て「検出せず」です。検査結果のコピーが必要なかたは、ご連絡ください。
編集室より
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。(ひさこ)