旅立つ若者

こんにちは。

日本の3月は卒業シーズン、旅立ちの季節ですよね。そんな季節とは、ケニアはまったく関係ないと思いますが、日本に戻ってくるときの機内での話を少々させてください。

 

今回のカタール航空・ナイロビ発ドーハ行きは、ほぼ満席。アラブ諸国に出稼ぎに行くケニア人が多いなか、私の隣席にはソマリアの青年が座りました。乗り慣れていないのか、少々落ち着かない感じでしたが、スマホをたくみに操作、自撮りなどをして楽しんでいる様子でした。

 

しばらくすると、ソマリ特有の口調で「マダム、マダム」と私に話かけてきました。こちらでは、一般的な(若くない?)女性はマダムと言うので、日本で使われる「マダム」とは感覚が違います。「なに~?」と彼を見ると、スマホ画面にある動画サイトtiktokを見せてきました。彼のtiktokアカウントにあるいくつかの動画を私に見せて「I am a comedian」「一緒に撮ろう」と言っているよう。「え?まじ?無理無理」と、丁寧に(?)笑ってお断りしました。青年はあきらめよく、それなら…と、自撮りを続行。そして、青年のとなりにいた彼のおじさんと例の早口(に聞こえる)ソマリア語で歓談を始めました。

 

さて、離陸後、機内のエンターテイメント・システムで映画を見ようと、画面をタップしていたけど、どうにも反応しなくて、何度も何度も触って「おかしいなぁ」とやっていたら、後方にいた別のソマリ青年が私の様子を見ていたのか、私がなんかの拍子に後ろを向いたときに目が合い「ひじ掛けのココんところに、リモコンが収納してあるよ」と、身振り手振りで教えてくれました。おぉ、ありがたい!・・・「Thank you」と目と手でお礼を伝え、画面操作ができるようになり、ほっとした次第です。

 

すると私の隣のソマリア青年が、私が映画を見始めたのに気づき「それどうやったの?教えてくれ」と。「ここにリモコンがありますよ」と、ひじ掛けをパカっと開き、得意げに教えてあげました。なぜか彼は言語選択を間違ったようで、また「画面をなんとかしてくれ」と言うので、英語でいいのか?と聞いたら「OK」と。

無事に英語になり、画面操作ができるようになった彼が選んだエンターテイメントは、コーラン(イスラム教の聖典。最近はクルアーンと言うみたい)。カタール航空は、アラブの航空会社なので、機内のエンターテイメント・システムにコーラン(音声)があるんです。

 

ソマリの青年が、ほかの国の若い子と同じように動画サイトでウキウキ楽しんでいるのを見た後に、イヤフォンにつないで聖典・コーランを聞いているのを見て、なんだかいい意味で衝撃でした。このギャップというか、若いんだけど、ちゃらちゃらした映画などは興味ないのか、聖典を聞いてしまうという現実。tiktokをやるような普通の子が、生活や人生の一部である聖典を聞くのは、あたりまえのことなのかもしれません。勝手に「ほぉ~」っと感心しながら、時折彼の様子をチェックしていたんですが、パスポートをふたつ持っていました。ひとつはソマリア、もうひとつはアメリカ。どちらも新しくてピカピカしていた。

 

80年代後半から内戦だのでごちゃごちゃしていて、国連平和維持軍なんかも引き上げてしまったソマリア。この青年は、なんとかケニアにたどりつき(もしくはケニア生まれ?)、アメリカに難民申請したのでしょう。祖国を離れ、アメリカという国に希望をもって乗り込むであろう青年の隣で、いろいろ想像してしまいました。

 

tiktok&コーランの若者よ、3月は旅立ちの季節だよね~としみじみしながら、ドーハに無事到着。青年はおじさんとともに、すたすたと飛行機を降りていきました。